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著作権の世界で、「放送」と「配信」はこんなにも違う!?

放送と通信の垣根がなくなりつつあります。ますます、便利な世の中が到来するんでしょうね。

ところで、音楽CDを放送で流すことは、JASRACなど著作権管理事業者に使用料を支払えば、とくにレコード会社に対して都度許諾を得なくとも良いのですが、これをインターネットで通信する(たとえば、YouTube番組で流す)といった場合は、レコード会社の許諾が要ります

著作権法には、レコード製作者という著作隣接権者には、次の通り、「送信可能可権」という著作隣接権はありますが、「放送権・優先放送権」という権利はありません。

(送信可能化権)
第九十六条の二 レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有する。

また、レコード会社は、アーティスト等の実演家の「放送権・優先放送権」を譲渡させて、いわゆる原盤権をレコーディング契約で持つ場合が多いですが、この アーティスト等の実演家の「放送権・優先放送権」については、次の条文が適用されて、「放送権・優先放送権」の権利行使ができないというたてつけになっております。

(放送権及び有線放送権)
第九十二条 実演家は、その実演を放送し、又は有線放送する権利を専有する。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 放送される実演を有線放送する場合
二 次に掲げる実演を放送し、又は有線放送する場合
イ 前条第一項に規定する権利を有する者の許諾を得て録音され、又は録画されている実演
ロ 前条第二項の実演で同項の録音物以外の物に録音され、又は録画されているもの

なお、前条1項とは「第九十一条(録音権及び録画権) 実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。」のことです。つまり、アーティスト等の実演家の許諾を得て、正規に作られたもの(音楽CD)は、放送することを禁ずることはできないということです。勿論、実演家についても、報酬請求権はあります(著作権法第95条;レコード製作者の報酬請求権は同法第97条にあり)。

というような、ややこしいこと極まりないですが、「放送」と「配信」とはこんなにも違っています。

もっとも、2021年8月22日の記事にて「2021年(R3年)の著作権改正:放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化」ということで、著作権96条の3「商業用レコードの放送同時配信等」という条項の新設で、その垣根が低くなっていこうとしているようです。

こういったことがあるので、著作権の世界は難しいように感じる次第です。